密会は婚約指輪を外したあとで
拓馬と密会したあの日。
二股状態でもいいから拓馬のそばにいたいと、ずるい考えが横切ってしまった。
この人のそばにいられなくなるくらいなら、一馬さんとの関係を続けた方がいい、と。
でもそれは、あの時だけの一時的な想いで。二股されている状態が続くなら、身を引こうかとすら思い始めている。
私には彼の気持ちを繋ぎ止める自信も、渚さんを傷つけていられるだけの図太い精神もない。
「この前、拓馬が夜に出掛けたとき、誰と会っていたか教えてくれなかったんだよね」
ふと、一馬さんが噴水を眺めたままつぶやいた。
「もしかして、なゆちゃんと会ってた?」
私はギクリとして一馬さんの横顔を見やる。彼の目元は穏やかで、責めている雰囲気はない。
鎖骨付近のキスマークも、ストールで隠しているから見えていないはず。
「ま……まさか。もし拓馬と会っていたら契約違反、ですよね」
伏し目がちに手元の手帳を確認しながら、うっすらと一馬さんは微笑んだ。
「当然、ペナルティはあるね」