密会は婚約指輪を外したあとで
どんな罰則かは怖くて聞けなかったけど、莫大な金額を請求されても困るので、勇気を出して聞いてみる。


「あの、もし契約違反をした場合、どうなりますか? 私、あまり貯金がないので、せめて就職が決まってからにしてもらえると……」

「ん? 何か、違反していること前提の流れになってきてない?」

「そんなことないです。もしも、の話ですから」

「ふーん……。それなら、契約違反をした場合は──」


非常に怪しんだ目つきで私を見据えつつ、一馬さんはしばらく考え込む。


「じゃあ、そうだな。俺と“1日デート”すること。一花は預けて二人きりで」


眼鏡の奥の瞳が妖しく輝いて見えた。

デートって……。

あわよくば、手を繋いだり抱きしめ合ったりするものではないだろうか。

しかも1日中?

背筋がゾクリと震えた。


「だけど、最近本当に拓馬と仲が良いよね、羨ましい」


微妙に話題を変えた一馬さんは、目尻を優しく緩め私を見る。


「いえ、向こうはペットとしか思ってないのかと思います」

「そうかな? ペット扱いは照れ隠しだと俺は思うよ」


“照れ隠し”という言葉に私は「まさか」と笑い飛ばした。
それが本当だったらどんなに良いだろう。
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