密会は婚約指輪を外したあとで
「一馬さんこそ、私の他にもお嫁さん候補がいるんじゃないですか? 気になってる人とか、いそうですよね」


気軽なトーンで聞いてみたのに、暗い沈黙がつかの間流れる。

無理に笑顔を作った一馬さんは、眼鏡をかけ直し取り繕った。


「……そんなことないよ。候補はなゆちゃんだけだから心配しないで」


心配、はしてないですが。
むしろ、私以外の嫁候補を早く見つけて欲しいくらいで。


「俺、ちょっとコンビニで昼飯と飲み物買ってくるよ。なゆちゃんはここで待ってて」

「あ、はい」


一馬さんは急にベンチから立ち上がり、花壇の間を通って出口へ向かって行った。

……怪しい。突然席を外すなんて。話をそらすためとしか思えない。


「ねえ、なゆさんも入ったら? 水が冷たくて気持ちいいよ」


一人になった私へ、ハルくんが噴水の中から声をかけてくれる。


「本当? それなら私も、ちょっとだけ入ってみようかな」


今日はクロップドパンツだから、多分水に濡れる可能性は少ないはず。

サンダルを脱ぎ、裸足になった私はそっと水の中に足を浸してみる。


「わ、冷たい」


噴水の水がランダムに次から次へと降り注ぎ、水面へ落ちていく音が心地よい。

水飛沫が時折顔にかかり、マイナスイオンが発生していそうで癒される。
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