密会は婚約指輪を外したあとで
「なゆお姉ちゃん、一緒に遊ぼ」


一花ちゃんが私の手を引き、噴水の中央へ誘う。

空高く弧を描いていた水飛沫が、静かに引いていったとき。

噴水の向こうに、病院側の入り口からゆっくりと歩いてくる男女の姿が見えた。


男性の方は拓馬で、女性の方は見覚えのない綺麗な人だった。

拓馬よりも年上に見える。二人とも長身でスタイルが良く、お似合いだった。

誰だろう……、渚さんとはまた違ったタイプの女の人。

髪は後ろで一つに束ね、キリッとした美人顔。

カーキ色のトップスは肩を出したデザインで、黒いデニムを合わせたモード系のファッションが、彼女の大人びた雰囲気を引き立てている。


深刻な話でもしているのか、黒のポロシャツ姿の拓馬は、その人に笑顔の一つも見せてはいない。

それだけが私にとっての唯一の救いだった。
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