密会は婚約指輪を外したあとで
「悪い、遅くなった」
私の妄想を邪魔するように、黒縁眼鏡の西條先輩がこちらへ走り寄ってきたので、私は仕方なくそちらへ顔を向ける。
「遅いですよ叶多さん。食事会もう終わっちゃいましたよ」
文句を言うと、彼は申し訳なさそうに眉根を下げた。
「ごめんな。急ぎの仕事が入ってさ。──で、どうだった? あいつ、深瀬の好みだっただろ?」
「えっと、まあ……そうですね」
やっぱり、男の人から見る“イイ男”は違うのだろうか。
一馬さんはどちらかというと、同性からの方が人気がありそう。
「背も高いしイケメンだし、俺のイチオシの物件なんだ」
「物件て。でも確かに、素敵な人でした」
私は素直に感想を口にする。
少し強引で胡散臭いところはあったけど、じゅうぶん恋愛の対象になり得る。
「久しぶりにあいつと会ったら、彼女いないって言っててさ。向こうも深瀬みたいな芋っぽい子が好きみたいだから、これはチャンスだ!って思ったんだよな」
「イモって……失礼ですよ」
私は口を尖らせ、得意気に語る叶多さんを睨む。