密会は婚約指輪を外したあとで
「ちょっと他校の生徒と喧嘩しただけだよ」

「喧嘩……」


私は呆然とその言葉を反芻する。

思い描いていた悪い想像とは違って、一方的に暴力を振るわれていたわけではないらしい。


「僕には仲間もいるし、全くの独りではないから安心して?」


穏やかな表情に戻り、彼は柔らかく微笑む。


「でも……。人を傷つけるのは良くないよ」


綺麗事だと言われる覚悟で私はハルくんを正面から見つめた。


「まあ、そうだよね」


意外とあっさりうなずくハルくん。

やり場のない寂しさや心の弱さが、暴力へ繋がっているのだとしたら。

それを取り去って癒してあげたい。

誰か、その役割を担ってくれる人はいないのだろうか?

たとえば、彼女とか。
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