密会は婚約指輪を外したあとで
「それなら……」


私の髪に自分の指を絡ませながら、耳元へくちびるを寄せ、ハルくんにしては低い声で囁く。


「キスの仕方、教えてくれる? 練習台にさせて欲しいんだ」


色素の薄い琥珀色の瞳が、真っ直ぐに私を捉えている。

その綺麗な瞳に引き込まれ、危うくうなずきそうになった私は、急いでハルくんから距離を置く。


「ダメだよ、ハルくん……! そんなの無理、私じゃ役に立てないよ!」

「ダメ……? じゃあ僕が本番で失敗してもいいっていうの」


拗ねたような顔で、ハルくんはくちびるを尖らせた。


「ハルくんはまだ未成年でしょ? 私とするなら、もう少し大人になってからじゃないと」


大人ぶって澄ました顔を作り、彼を諭す。

ところが彼は何も気にした様子がなく、私ともう一度距離を詰めてくる。


「お姉さんぶったなゆさんも可愛い」


軽く上目遣いになった彼は、頬にかかる私の髪をそっと耳にかけた。


「どうしても、無理なの?」


顔をやや斜めに傾けると、長めの前髪がサラサラと眉間に落ち、目元に陰りができる。

どこか哀愁漂う表情に私の胸が疼く。

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