密会は婚約指輪を外したあとで
「──ちょっと待て」


キスをされそうになった直前。

乱暴にドアが開き、勝手に部屋へ上がり込んできた拓馬が、ハルくんの髪を後ろから鷲掴みにした。


「イタっ」


顔をしかめたハルくんは、私から思い切り引きはがされる。


「目を離すと、すぐこれだからな」


苦々しく拓馬は溜め息をつき、私を睨みつけた。


「あんた、兄貴と血が繋がってれば、誰でもいいのかよ」

「……違うの、誤解だよ。私、ハルくんのお母さん代わりになってるだけなの。そんな関係じゃないから」


言い訳は聞きたくないとばかりに、拓馬は私の台詞を無視し、「帰るぞ」とハルくんへ短く言い捨てた。


拓馬がちょうどよく駆けつけてくれたのは、キッチンでオムライスを作っている隙に、『ハルくん、今うちに来てるよ』とメールしておいたからだ。


来てくれなかったら今頃、ハルくんとどうなっていたか……。

青ざめた私は、ハルくんへブレザーを渡すためソファから立ち上がった。
< 186 / 253 >

この作品をシェア

pagetop