密会は婚約指輪を外したあとで
話が一区切りし、小腹が空いてきた頃。
ツナの和風パスタを作ってみたら、拓馬は完全に機嫌を直してくれた。
気に入ったらしく、たくさん食べてくれたのでホッとする。
「奈雪、一緒に映画見よう」
後片付けが終わり、何かのケースを持った拓馬は私へ提案をしてきた。
「邦画のDVD持ってきたんだ」
手渡されたディスクは、恋愛映画ではなく──今話題のホラー映画だった。
ものすごく怖い本格的ストーリーだと、テレビで紹介されていたのを見たことがある。
もちろん、私はすぐにチャンネルを変えた。
「う……、うん。いいよ。私も気になってたの、この作品」
ホラーは苦手だと言い出すことができず、すすめられるままディスクをセットする。
アイスココアを二つ用意したあと、ソファに座って一緒に鑑賞することとなった。
二人掛けのソファなのでかなり狭く。彼の腕にぶつかりそうなほどの近距離だ。
別の意味でドキドキしてしまう。
少し動いただけで、微かな彼の香水の匂いが漂ってくる気がする。
ストーリーが進むにつれて、視聴者を怖がらせる演出が増えてきた。
主人公が駆け上がる階段を、何者かがじわりじわりと追いかけてくる。
曲がり角を曲がった、そのとき──。
「……!」
私は恐怖のあまり、隣に座る彼のシャツ──腕の辺りにしがみついていた。
映画に夢中になっているのか、なぜかお咎めは無し。
そういえば、拓馬はこういう計算高い女は嫌いだったっけ……。もしかして、怒っているのかな。
でも、そうも言っていられない。
恐ろしさを後押しする、この効果音が鳴っているということは──
「きゃあっ……!」
悲鳴が部屋に響き渡り、私はそばにあった何かに顔を押しつける。
一瞬だけ、見てしまった……。見てはいけない、おぞましいものを。