密会は婚約指輪を外したあとで



ベッドの中で一花ちゃんは弱々しく目を瞑っている。

私にできることといえば、ガーゼに包んだ保冷剤で首の後ろや脇の下を冷やしてあげることくらいだった。


「……パパは?」


時折うっすらと目が開き、熱っぽいとろんとした顔で私へ何度も尋ねる。


「パパはまだ会社なの。ごめんね。お仕事が終わったらすぐ帰ってくるから」


私がそう答えるたび、一花ちゃんの顔が泣きそうに歪む。


「……ママに会いたい。ママ、抱っこ。抱っこ」


夢でも見ているのか、うなされ始める一花ちゃん。

私では手に負えないと判断し、一馬さんへどうしたら良いかとメールを送る。

数分後、返信があり、楓さんに連絡がついたので一花ちゃんのお世話を頼むことになったと書かれていた。





一時間後。会社からそのままこちらへ向かったのか、パンツスーツを着用した楓さんがマンションに到着した。
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