密会は婚約指輪を外したあとで
拓馬の気持ちが渚さんに向いている可能性が残る以上、今はただ待つしか術がない。
「それにほら、見て下さい。いつも一馬さん、飾って眺めているみたいですよ」
私が指差した方向へ顔を向け、楓さんは一瞬表情を固まらせる。
本棚の上には、純白のウェディングドレスを着た楓さんや、生まれたばかりの一花ちゃんを抱きしめる楓さん。
そして一馬さんを含め、三人で撮った家族写真も飾られていた。
以前見たときよりも写真立ての数が増えている。
「何やってるの、あの人は。……恥ずかしい」
顔をそむけた楓さんの表情は、どこか照れくさそうに見えた。
「こんなことをしていたら、新しいお嫁さん来てくれないじゃない」
「一馬さんは最初から、そんなつもりはなかったのかもしれないですね。楓さんが帰ってくるのを密かに待っていたんです」
「……あの人はずっと、娘を傷つけた私のことを憎んでいるだけだと思ってた」
小さくつぶやいた楓さんの頬には、一筋の涙が光っていた。