密会は婚約指輪を外したあとで
銀縁眼鏡をかけ直した彼は、知的な眼差しで私のことをじっと見下ろしてきた。


「君は────拓馬のペット、だったか」


はっきりと否定するのもどうかと思い、まあそんなところです、と濁しておく。

そんな風に失礼な感じで聞くのは一人しか心当たりがなく、やっぱり渚さんの旦那さんだと確信する。

拓馬と私の関係は何なのか。
私も知りたい。


病院から出てきたところを見ると、彼は患者か見舞い客、病院関係者のいずれか。
白衣を着ているところから見ると──


「龍之介さんは、ここの病院で働いているんですか」

「ああ、まだ研修医だが」


渚さんの旦那さんは医者の卵だったと知り、目を見張る。

休憩中なのか、龍之介さんは私の隣へ腰を下ろした。

奥二重の切れ長の目が、私を見つめてくる。──いや、観察しているといった方が正しいかもしれない。


「君は、外見だけなら妻の渚に似ているな」

「……そうですか? だから拓馬は私に近づいたんでしょうか」

「それもあるかもしれないな」


あっさり頷かれ、僅かながらも傷つく。

思ったとおり、私は渚さんにどこか似ているらしく。そのせいで拓馬は私のことを渚さんに重ねて見ていただけなのだと知った。
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