密会は婚約指輪を外したあとで
「あの。龍之介さんは、二人がどういう関係か気づいてるんですか?」

「さあな。一般的に見れば不倫関係なんだろうな。
──だが、俺は妻のことを信じている」


きっぱりと言い切った彼は、白衣の袖をまくり腕時計を確認した。


「えっ。奥さんのこと疑っていないんですか?」


私は、拓馬のことを疑ってやまないのに?

龍之介さんは驚く私にかまわず白衣を脱ぐと、ベンチから立ち上がり私を振り返った。


「大事な話があると、拓馬に呼び出されているんだ。君も暇ならついて来るか?」

「……私も行きます」


渚さんに関係のあることなのだろう。

気になるので私もこっそりついて行くことにする。

龍之介さんの少し後ろを歩きながら、公園の敷地内を出た。


「聞きづらいことなんですが……渚さんがもし、離婚を考えていたとしたらどうするんですか?」


いつだったか渚さんが“離婚”という2文字を口にしていたのを思い出し、失礼とは思いながらも質問を投げかけてみる。


「離婚はあり得ない。そんな半端な覚悟で結婚したわけではない。何度でも渚との関係を修復し、自分に非があるなら改善させるまでだ」


迷いもなく言い放つ龍之介さんは、左右を確認してから急ぎ足で道路を渡る。

何だか龍之介さんのことが頼もしく思えてきた。

外見は冷たい感じに見えるけど、心の奥底に強くて優しいものを潜めていそうだ。
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