密会は婚約指輪を外したあとで
颯爽と前を行く龍之介さんを、私は小走りで追いかける。

何とか横に並ぶと、龍之介さんはちらりと眼鏡ごしに視線を寄越した。


「渚さんは、拓馬のことを好きなんでしょうか」

「それはないと思いたい」

「何か悩んでることとか、心当たりはあるんですか?」

「俺が仕事漬けで渚に構ってやれてないから、色々とストレスが溜まっているんだろうな」

「龍之介さん……。ちゃんと奥さんのこと掴まえておいて下さい」


じゃないと私も困ります。

必死な視線を送れば、龍之介さんは私から目を逸らした。


「わかっている。だが……拓馬の方は、渚にまだ未練があるのかもしれない」

「拓馬が、未練」


複雑な気持ちを浮かべつつ、私は小さく反芻する。


「高校時代、渚と拓馬、そして俺は同じ演劇部で。渚と拓馬は周りから見ても付き合う一歩手前のような雰囲気だった。
俺はあとから渚への気持ちに気づき、二人の関係を壊した。
拓馬から渚を略奪したも同じだったんだ」
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