密会は婚約指輪を外したあとで
「本当に私でいいの? だって、拓馬の好みは、化粧が濃くて綺麗系だって言ってたのに」
ふと、前々から疑問に思っていたことを口にしてみる。
「好みは一つじゃないだろ。一番の好みが奈雪みたいな女ってだけ」
長く伸びた自分の前髪を軽く指で払い、首を傾ける。
「最初は兄貴の婚約者だから興味を持っただけだった。けど、奈雪はいつの間にか兄貴のことも、弟の春馬のことも精神的に支えてくれていた。俺も仕事から疲れて帰って、奈雪の顔を見て癒されて。そんな女が本当に家族の一員になったら幸せだろうなって、思うようになったんだ」
拓馬がそんな風に思ってくれていたなんて知らなかった。
指輪が落ちないように、ぎゅっと手のひらを握りしめる。
「今すぐにとは言わない、いずれは家族になってほしい」
私の目から一粒、涙がこぼれ落ちる。
「いつか、俺たちが結婚することになったら。そのときは、偽物じゃなくて本物のダイヤのついたやつを渡すから」
「……うん。偽物だったとしても、好きな人からもらった物なら嬉しいよ」
指輪を撫でながら微笑むと、拓馬は力強く私を抱きしめてきた。
さっきまでの彼らしくない控えめな触れ方は、一馬さんとの関係を誤解されたままだったからだと気づく。