密会は婚約指輪を外したあとで
拓馬が私の手を引き、祭壇上の十字架の前に向かい合わせで立つ。
今度は契約ではなく、二人だけの約束。
どこか緊張した面持ちの彼と視線が合い、私は瞼を伏せる。
唇が重なり、チャペルの高い天井から淡い光が降り注いだ気がした。
ひっそりと交わすキスは、誓いのキスのようで。
今までよりも特別な、神聖なものに感じる。
遠回しに“好き”と言われたけど、ストレートには言ってくれないのかな。
そう、寂しく思いかけたとき。
拓馬は私を抱きしめ、耳元へくちびるを近づけたあと、ずっと欲しかった言葉を聞かせてくれた。
「……好きだ、奈雪」
『密会は婚約指輪を外したあとで』 ~fin~