密会は婚約指輪を外したあとで
「雨、やまないね」
カーテンの隙間から見えるのは、道路に溜まった水が川のような勢いで流れていく様子。
降りしきる雨の強さは増すばかりで、地下鉄で私のアパートに来た拓馬の足止めをしていた。
風が強いのもあり、今外に出たら、いくら傘をさしてもずぶ濡れになってしまうはずだった。
「俺は別に、帰るの急いでないから。今日は楓さんが来るって言うし、家に居づらいんだよな」
楓さんは近々、一花ちゃんのお母さんとして戻ってくるので、拓馬と春馬くんはマンションを出る予定らしい。今は物件を探しているところとか。
「奈雪は?」
「私も今日は何も予定がないから、何時でも大丈夫」
「それなら、雨も降ってることだし、外食やめて奈雪の手料理が食べたい」
優しく微笑みながら言われたので、とても断れる雰囲気ではなかった。
あの毒舌で意地悪な拓馬はどこへ行ってしまったのだろう。
「簡単なもので良ければ、作るね」
冷蔵庫の中を確かめ、キッチンに立った。