密会は婚約指輪を外したあとで
「なゆさんは、僕が中学のときに交通事故で死んだ母さんに似てるから」

「……そうなの?」


お母さんが亡くなっていたなんて、知らなかった。

一馬さんからも全く聞いていない。


ハルくんはただ、お母さんのことを思い出して、懐かしんで抱きついてきただけなんだね。

男女としての行為かと、一瞬でも疑った自分が恥ずかしい。

すっかり感情移入してしまった私は、されるがままにハルくんに抱きしめられた。


「辛いこと、思い出させてごめんね」


背中に回された腕に力がこもる。

だから私も彼の体へ手を伸ばし、そっと背中を撫でてあげた。
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