密会は婚約指輪を外したあとで
しかも運悪く、私のいるロビーへスーツの男の人集団がなだれ込んできた。
そのせいで足元が見えなくなり、リップの行方がわからなくなる。
きょろきょろと床を見回していると、
「あんたが探してるのって、これ?」
よく通る低い声が降ってきて、目の前にオレンジ色のリップが差し出された。
「あっ。そうです、私のです! ありがとうございま……す……」
拾ってくれたその人の顔を見上げた途端、私は呼吸も瞬きも忘れて魅入ってしまった。
細身のスーツを着こなした端正な顔立ちの男の人は、綺麗なストレートの黒髪。
やや吊り目がちな瞳は夜空のように深い色をしていて。
私好みの、輪郭がはっきりした大きな目だった。
どこか憂いを含んだ眼差しを向けられ、耐え切れなくなった私は、勿体ないことに視線を下にずらしてしまう。
彼は披露宴に出席した帰りらしく、片手に引き出物の袋を持っていた。
リップを手渡された瞬間、微かに指が触れ合ってしまいドキリとする。