密会は婚約指輪を外したあとで
陽の光が反射する、綺麗に磨かれた眼鏡をかけた一馬さん。
休憩中にわざわざ寄ってくれたのか、いつもどおり皺のない下ろし立てのようなスーツを着ている。
「なゆちゃん、お願いがあるんだ。俺ともう一度、始めからやり直して欲しい」
「始めから?」
「出会ったあの日から、友達として」
「婚約者ごっこは終わりってことですか?」
「そう……俺たちの中ではね。
勝手だと思われるかもしれないけど、弟たちの前ではまだ、恋人のフリをしていてくれないか」
私はどんなふうに答えたら良いのかわからず、ただシャツの裾を握りしめてうつむいた。