密会は婚約指輪を外したあとで

──そうだ、遊ばれたとしても一馬さんに告げ口すればいいか。

マイナス思考な自分なりに、楽観的に考えることができて嬉しくなる。

そのおかげで私の脳内妄想はあっという間に終了した。



証明写真を撮り終えたあと、小腹が空いてきたことに気づき、お腹に手を当てる。
お金を節約しているから、朝から何も食べていない。


フードコート付近を通りかかり、イタリアンレストランの入口に立て掛けられた写真付きのメニューを眺めていると、背後から男の人の声が響いた。


「ヨダレ垂らしてる犬がいるな、と思ったら。あんたか」


意地悪な声に振り返ると、私服姿の拓馬さんがすぐそばに立っている。
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