密会は婚約指輪を外したあとで

「よ……ヨダレなんか垂らしてませんっ」


しかも犬って何?


「メシ奢ってやるから、ついてくれば」


拓馬さんは私の反応を見て軽く笑い、お店の中へ入っていく。


職無しの私には、ご飯をご馳走してもらえるのはかなり有りがたい。

でもまだ、愛人としての心の準備は……。


入口でためらっていると、拓馬さんが鋭い眼光で「入れ」と合図するので、仕方なく彼の後ろについて行った。


スタイルの良い拓馬さんは、グレーのダメージジーンズと黒いシャツを着ている。

まるでモデルみたいで、自然と彼を目で追っている自分がいた。

向かい合わせの二人用テーブルに着くと、彼は通路側の椅子に座り、私を奥の席に座らせてくれる。

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