密会は婚約指輪を外したあとで
「渚。こんなところにいたのか」
その声に、私たち3人は同時に視線を向ける。
声の主は銀縁眼鏡をかけた知的な感じの男性で、人混みを掻き分けてこちらへ近づいてくるところだった。
「龍之介……」
それに気づいた渚さんの顔が強張り、泣き出しそうに歪んだのが気になった。
「拓馬も一緒だったのか」
龍之介と呼ばれた人は、拓馬に親しげに声をかける。
同じ眼鏡でも一馬さんとは違い、冷たい印象だ。
白衣が似合いそうだし、メスを片手に研究室で恐ろしい実験をやっていそう。
──あくまでも勝手なイメージだけど。
「先日は、ありがとうございました」
あの拓馬が頭を下げているから、龍之介さんという人は拓馬より目上らしい。
「いや、こちらこそ」
「花嫁の手紙より新郎の挨拶の方が感動しましたよ」
「そうか? ただ定型文を読んだだけなんだが。──そんなことより、拓馬」
「はい?」
「その子はもしかして……」
龍之介さんの近寄りがたい冷徹な瞳が、私を射抜く。