密会は婚約指輪を外したあとで
◇
家まで送るという拓馬に、駅まででいいと断った私は助手席に深く座り、前を走る車を目で追っていた。
音楽くらい流してくれればいいのに、拓馬はさっきから黙ったままハンドルを操っている。
様子のおかしかった渚さんのことを想っているのだろうか。
拓馬は否定したけど、やっぱり渚さんは彼にとって特別な人なのだと思う。
何となく、そんな気がして仕方ない。
「──気をつけて帰れよ」
運転席から声をかけられ、いつの間にか車が駅に着いていたことに気づく。
「あ、はい。ありがとうございました」
慌ててドアを開けようとしたとき、突然強く右の手首を掴まれた。