密会は婚約指輪を外したあとで


「何年ぶりだろう、手作りのハンバーグ食べたの。レトルトばっかりで飽きてたんだよね」

向かいの席に座っているハルくんが、湯気の立つ料理を見て感慨深げに言う。


彼の隣でフォークを片手にご飯を頬張る一花ちゃんも、美味しそうに食べてくれている。

一馬さんたちの分も用意してはいるけれど、二人が仕事から帰ってくる気配はない。


「お母さんとは時々会ったりするの?」

「僕の母さん?」


ためらいがちに訊いてみると、ハルくんは笑顔を消して訊き返した。


「全然会ってないよ。忙しい人だから」

「そっか……」

「いちかもママに会いたい」


フォークを置いた一花ちゃんが、ハルくんのシャツの袖を引く。


思えば、どちらの両親も離婚していて、父親の方に引き取られているんだ。

社会人になるまで両親に育てられた私には、彼らの気持ちはわからない。
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