密会は婚約指輪を外したあとで
ハルくんがカウンターキッチン越しに話しかけると、拓馬は首を横に振った。


「いい。これから外で飯食いに行くことになったから」

「そっか。じゃあ明日に取っておくね」


ハルくんは拓馬の分を冷蔵庫にしまう。


拓馬はソファに一花ちゃんを座らせたあと、すぐにリビングを出て自分の部屋へ行ってしまったようだ。

食器が片付いたのでタオルで手を拭いていたら、ハルくんが肩が触れそうなほど近い位置に立ち、私の耳元で囁いた。


「拓兄、今夜は密会かも。尾行してみる?」

「……尾行っ?」


大きな声を上げそうになった私を、ハルくんはシッと人差し指を立てて制する。


「だけど、一馬兄さんが帰って来ないことには家を空けられないし。どうしようかな」


確かに、小さな一花ちゃんを一人で家に残していくわけにはいかない。
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