密会は婚約指輪を外したあとで
「プライベートを詮索するのは良くないから、やっぱりやめておこうよ」
私がそう提案したとき、玄関の扉が開く音と「ただいま」と言う声がして、今度こそ一馬さんが帰宅したようだった。
リビングに入ってきたスーツ姿の一馬さんへ向かって、一花ちゃんが飛びつく。
「パパ、おかえり」
「遅くなってごめんな、一花」
「あとで一緒にお風呂ね」
一花ちゃんは子犬のように一馬さんの周りを飛び跳ねている。
「一馬さん、おかえりなさい」
食器洗いが終わった私はリビングへ顔を出した。
一馬さんはネクタイを緩めながら、疲れているとは思えない爽やかな笑顔を見せた。
「なゆちゃん、今日はありがとう。今度なゆちゃんの好きな物食べに行こう、ご馳走するから」
「いえ、そんな」
何も考えずに首を振った私は、恋人っぽくない返答だったかと焦るが、ハルくんの方を振り返ってみても特に訝しげな反応はない。