密会は婚約指輪を外したあとで

拓馬が、ハルくんの代わりに?


「そんな……、一馬さんたちもいないの?」

「ああ、一花と二人で買物に行った」


ということは、今この家には私と拓馬の二人だけ。


もしかして最初からこうなるように仕組んでいたとか?

ハルくんの悪戯な笑みが目に浮かぶ。


「ちょっと待ってろよ、着替えてくる」


さっと身を翻した拓馬は、廊下の奥の部屋へ入っていった。



本当に私とどこかに出かけるつもりなのだろうか。

申し訳ないより、信じられない気持ちだった。

可愛い弟の頼みとはいえ、素直に引き受けるタイプには見えない。


このまま帰ってしまおうか。

そう悩んでいたとき、部屋の扉が開き拓馬が出てきた。


先程のラフな格好とは違い、白い五分袖のシャツを着て、黒いパンツを合わせていた。

腕にはセンスの良いシルバーの時計と革のブレスレットが飾られている。

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