密会は婚約指輪を外したあとで
「でも、ファッション雑誌では、ベージュは日本人の肌に合うって……」
「肌の色は人それぞれだから。自分に一番似合う色とは限らないよ」
翔さんは優しく微笑みながら私を見つめる。
「より似合う色を身につければ、より魅力的に見える。最大限に魅力を引き出すことができるんだよ」
コットンで口紅を拭き取った翔さんは、筆で私のくちびるに再度色をつけていく。
「──やっぱり。奈雪ちゃんはイエローベースじゃなくてブルーベースだね。さっきより顔色がよく見える」
鏡の中の自分は、さっきまでとは違いイキイキとしていて、若返ったかのようだ。
思えば、拓馬から「老けた?」とひどい言葉を投げつけられたのも、服やメイクのせいで老けて見えていたということかもしれない。
誰でも似合いそうな茶系を選び、ベージュやオレンジ色のアイカラー、サーモンピンクの口紅だったから魅力が抑えられていたということ──?