愁歌
赤い糸
師走の街は溢れんばかりのクリスマスの装飾で覆われ、コートの衿を立ててすれ違う人々は足早に通り過ぎて行く。
言葉少なく、それでいて重なるように歩く二人は、ガラスの向こうにいるような彼等の世界を作っていた。
JR和歌山駅東口にある関西空港行きバスターミナルが近づくと、既に大きなスーツケースを持った若者達や年配のカップルが列を作りリムジンバスの到着を待っているのが見えてきた。
裕子は自動販売機で二人分のチケットを購入し、一枚をマイクに渡した。
「サンキュー」
マイクは受け取ると、裕子の肩を引き寄せ彼女の長い黒髪に頬を遊ばせた。
定刻通りリムジンバスが到着し空港からの乗客が下車すると、外の寒さから逃れるように待っていた人々の列が中に吸い込まれて行く。
最後尾だった二人の後ろにも気付かないうちに人の列が続いていたが、裕子は肩に掛かったマイクの手を振り払い、駅の改札まで駆け出してしまいたいという衝動に逆らうように、彼女はチケットを握り締め流れのままに足を運んでいた。
「裕子、早く乗って」
マイクは彼女の背中を乗車口に押しこんだ。
彼は裕子を窓側に座らせると、長い足を折りたたむように隣に座った。
師走の夕暮れは並木を飾るクリスマスのイルミネーションに追われるように夜の帳を早め、車窓から見えていた景色に、気がつくと瞬きが涙のしずくを振り払っている裕子の横顔を写していた。

  
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