先輩と私と彼と。
先輩達全員が私たちの方を向く。
「あーっ!」
急に瀬川先輩が大声をあげ、こちらに近づいてきた。
そして私の前へ来て。
私…が手に持つドーナツを見つめだした。
「それ新発売のやつだよな!うわあ、超うまそー!」
…え、先輩?
「食べ、ます…?」
「え、いいのか!?」
「…どうぞ」
ドーナツを渡すと、先輩は半分に割って、片方を私に差し出した。
「悪ぃな、いただきます」
そして、顔をくしゃっとするように笑う。
…ずるい。その笑顔は。
私は顔を少し下へ向けながら
「い、いえ…」
小さく呟いた。
「おい雅樹、行くぞ」
先輩達が瀬川先輩に声をかける。
「あぁ、悪ぃ悪ぃ」
「ったく、ドーナツ貰って…」
そんな会話をしながら教室を出て行ってしまった。
そうか、瀬川先輩の名前は雅樹だったっけ…
どうでもいいことを考えてしまう。