One Night Lovers
 車は山道を登る。

 ちらほらと道路脇に温泉街にあるホテルの看板が見えてきた。狭く曲がりくねった道路を覆うように大木の枝が張り出している。

 こんな山奥まで来てしまったんだ、と今更だが思った。

 昼間なら自然がいっぱいで空気が美味しいと喜んでいられたのに、陽が傾き鬱蒼とした林がすぐそこまで迫っているのを見ると、急に不安な気持ちになる。


 ふと、元彼のことが頭をよぎった。

 不安な気持ちは芋蔓式に不安な記憶を呼び起こし、逃げるように彼の部屋を出た日のことを思い出す。胸の中は満たされぬ想いが鬱積して爆発しそうだ。

 何だか急に自棄を起こしたい気分になる。

 どうせ捨てられた私だ。めちゃくちゃ飲んで、めちゃくちゃ酔っ払って、めちゃくちゃ暴れて、目が覚めたら新しい自分になるっていうのはどうだろう。

 そういえば「この失恋はアンタの人生の中でも最大の失恋だ」と占い師は言った。ということは、この先これ以上の大きな失恋はしないはずだ。

 もし、あの占い師の言葉が当たっているとしたら、の話だけれども。

 どうせこんな山奥に来たのだし、一緒にいるのは気心の知れたネネとさっき知り合ったばかりの男二人だ。

 今まで人目を気にしすぎて無難にふるまうことに必死だったけど、ここでは人目を気にする必要もないだろう。


 今夜はこれまでにないくらい弾けてやる、と私は密かに決意した。
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