One Night Lovers
 私の生活に劇的な変化が訪れたのは旅行から戻って2ヶ月近くが過ぎた頃だった。

 街はすっかり秋の装いになり、濃い緑に覆われていた避暑地は紅葉が見頃らしい。

 テレビニュースでたまたま見かけて、夏の一夜の恋を思い出し懐かしい気分になる。

 同時に今夜から元彼のカジケンが主演のドラマが始まるということもテレビで知った。

 番宣のために朝の番組にも生出演していて、久しぶりに元彼が喋る姿を見て懐かしくなった。

 もう好きとか嫌いとかそういうややこしい感情とは無縁の、ただ大学の同期を久しぶりに見たなという薄っぺらな感動だった。

 自分でも意外なくらい未練はない。

 テレビで観るカジケンは付き合っていた頃より痩せて鋭くなったような気がした。そしてテレビ映りが格段によくなった。

 彼は彼なりに努力しているのだろうと思い、彼の成功を心から嬉しく感じる。

 だけど、主演のドラマを観るべきか否かという点で、私の心の中は激しく荒れた。

 何しろドラマのストーリーは略奪愛をテーマにした純愛だと番宣で派手に紹介されている。

 略奪愛で純愛とは矛盾もいいところじゃないか、と朝食のサラダを頬張りながら画面につっ込んだ。


 結局ドラマの録画予約はせずに出勤した。

 朝一番にメールチェックをして、見知らぬ人からのメールを発見する。

 アドレスを確認すると社内の人間であることは間違いないが、件名がない。

 不思議に思いながら開いてみると、仕事には全く関係のない用件だった。


「あなたのことが気になっています。よかったら来週一緒に食事でもしませんか」
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