One Night Lovers
「ルリの会社にも近いし、いいと思わない?」

「……ん? 何が?」

「明日はここから会社に行けばいい」


 眩しいくらいの笑顔でそう言ったケイゴの顔を茫然と見つめた。

 そのためにここに引っ越したってこと?


「だけど、前の日と同じ服で出社したら何言われるか……」


 全然働いていない頭で、やっと考え付いたことを言ってみるが、ケイゴの表情は変わらない。

 むしろ、更に嬉しそうだ。

 ホントに何を考えているんだか……。


「じゃあ、ここに住んじゃえば?」


 私はスローモーションで首を傾げた。彼もおどけて一緒に首を傾げる。


「何、言ってんの? ケイゴには彼女いるんでしょ?」

「ああ、あれね……」


 急にケイゴの顔が曇った。

 やっぱり、と私は内心酷くがっかりする。

 そんな期待させるようなことを言わないでほしい。

 冗談ならもっと冗談っぽく言ってくれないと。

 それほど都合のいい女に思われているのかとこっそり嘆息を漏らす私の耳に、ケイゴの暗い声が聞こえてきた。


「だからさ、あのときの俺はとりあえず仕事が彼女みたいなもんだったわけ。ルリに『付き合ってほしい』と言いたくても言える状態じゃなくて、それにルリはルリで俺のことは最初からあの夜限りって扱いだし、どうしようもないじゃん」
< 64 / 72 >

この作品をシェア

pagetop