One Night Lovers
 さすがに呼吸が苦しくなってケイゴの胸になだれ込むと、ぎゅっときつく抱き締められて胸が切なくなる。

 本当に実体のあるケイゴが私を抱き締めてくれているのが信じられなくて、彼の背中に手を回してぎゅっと抱きついてみる。

 テレビの中のケイゴもいいけど、やはり実物には到底かなわない。


「でも車もこの部屋も、全部ルリのおかげだね」


 しみじみとした声が上から聞こえてきた。


「どうして?」

「ドラマ、観てた?」

「うん」

「カジケンを殴ったところも?」

「うん。びっくりした。本当に殴ってるみたいに見えた」


 ケイゴはクスッと笑い、私の顔を覗き込んできた。


「『みたい』じゃなくて、本当に本気で殴ったんだよ」


 思わず「ええ!?」と言う声が裏返ってしまう。

 彼は悪戯が大成功した子どものような得意げな表情だ。


「コイツがルリを……って思ったら演技とか忘れちゃって、マジで殴っちゃったんだよね。気がついたらカジケンがよろけていて一瞬焦ったけど、まぁおかげで一発OKだったし、迫真の演技とか言われてドラマの視聴率上がって、俺にも他の仕事のオファーが来るし、やっと人並みの生活を送れるようになって、なんかもう全てルリのおかげ?」
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