記憶混濁*甘い痛み*2

「…受胎告知の謳があるなら…生まれてくる事が出来なかった子供を祈る謳もあるのかな…」


和音はカサブランカの花束を燭台の隣に置いて、ロザリオを手にかけると、今日生まれてくる予定だった子供の為に祈りを捧げた。


「キリストを憎んだり……それでも救いを求めたり……そんないい加減な親に祈られても、救われないか。悪いな……オレよりも、ホントは友梨が祈った方が、きっとオマエに届くだろうに」


ステンドグラスからは、穏やかな光が差し込んでいた。


今日生まれてくる事が出来たなら、こんなに柔らかな光の中で、全てに祝福されて生まれて来たんだよ……と、伝えることが出来ただろうに。


光を受ける事もなく逝った我が子は、女の子だった。


和音が自らの意志で見殺しにした娘には、もう指も爪もはえていた。


事情を知った執刀医に『せめて君だけは抱いてやれ』と小さな命を抱かされた時、まだかすかに『娘』は温かかった。


怒りと憎しみと悔しさと、それを上回る悲しみと、友梨に対する憐れみと、無力な自分自身への憤り。
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