記憶混濁*甘い痛み*2

泣いたのか叫んだのか……少しずつ、けれど確実に冷たくなる我が子を離したくなくて、座り込んで抱きしめた。


どうにかして奇跡が起きないか、自分の命をこの子に吹き込めないものなのかと、有り得ない事を本気で考えていた。


友梨に抱かれることもなく、天に帰る我が子が哀れだった。


そして、一度もその手に我が子を抱くことが出来なかった、友梨の事も。




『レクイエムって、ラテン語で安息って意味なんです。死を直接意味するものではありませんけれど、天使さまのお迎えの時には安らかなるようにとの、そんな願いがこめられているのかもしれませんわね』




アヴェ·マリアについて話した時に、レクイエムやグレゴリオ聖歌についても彼女は教えてくれた。


友梨がもしも、娘の死を受け入れられるだけの強さがあったなら、娘の為にレクイエムを謳い祈りを捧げたのだろうか  

それとも、オレを憎み、毎日を泣いて過ごしたのか 
でも、憎める強さがあれば……記憶の闇に隠れたりはしない  




友梨は、オレを憎みたくないが為に、オレと我が子の記憶を消したんだ。
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