記憶混濁*甘い痛み*2

その日の、夜遅く。


芳情院が病室に着くと、友梨がソファーに座って、ぼんやりとロザリオを見つめていた。


時間は23時を過ぎているのに、寝着に着替えてもいない。


「……友梨?」


コートを脱ぎながら声をかけると、友梨はハッとした顔で。


「……お兄様。来て、下さったのね。ありがとうございます。お逢いしたかったの……」


と、言って、芳情院からコートを受け取りハンガーにかけた。


「毎日逢っているのにかい?可愛い事を言ってくれるね、友梨」


そう言って芳情院は友梨を抱きしめ、毎日の挨拶になっている軽いキス。


友梨は恥ずかしそうにキスを受けながら。


「だって…」


と、言って、芳情院の胸に甘えるように頬ずりをした。


芳情院は愛おしそうに友梨の髪を撫で、ソファーへと誘導し、彼女を抱えるようにして腰を降ろす。


「ほんの少しでも……離れていると、不安になる」


それが、どうしてなのか……まだ友梨には解らなかった。


解るのは、芳情院の腕の中は暖かくて居心地が良いということ。


だからずっと、いつまででも甘えていたいということ。




子供みたいな感情だ。
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