記憶混濁*甘い痛み*2
「……」
きっと友梨は…また少しずつ条野に惹かれている。
ひと月前のように激情の炎に巻き込まれたのではなく、静かに、けれど、確実に。
条野の記憶など残ってはいない筈なのに、友梨の心は、再び奴を求め始めている。
どうしたら、友梨の想いをつなぎ止めておく事が出来るのだろうか。
いや、それとももしかすると、もともと友梨は、オレの事など想ってはいないのかもしれない。
オレは友梨にとっては『お兄様』でしかなく、結局のところ一番居心地の良い異性でしかなかったのかもしれない。
けれどあの日……友梨が条野との全ての記憶をなくして目覚めた日。
友梨の問いかけに、オレが夫だと頷いてしまった。
友梨は一瞬不思議そうな顔をしたものの、すぐに納得したようだった。
条野の記憶をなくした今、彼女の中のオレは嫌悪を抱く婚約者ではなく、いずれ結婚する幼なじみだったお兄様で、彼女が結婚に疑問を持つような問題点は何もないのだから。
記憶のない友梨を相手に、愛される役割を条野から奪い取り、彼女の心と身体を好きに陵辱して。
愛という言葉にかこつけて、過去の裏切りを許せずに、ただ欲望をぶつけている。