記憶混濁*甘い痛み*2
その、次の日。
和音と友梨は軽い会釈をしてすれ違った。
3日め。薬品室の前で出逢い少しだけ話をした。
5日めに微笑みを交わし、7日め逢えなくて涙を流した。
友梨は(今回は)芳情院に和音の事を話していた。決して、やましい気持ちではないと思いたかった。
芳情院は和音から聞いてはいたものの、知らないふりをして友梨の話に合わせた。
和音は、妻と子を一度に亡くした気の毒なひと。
病院で出逢って、たまに話をする相手。
ほんの少しでも、悲しみが癒えないかと願っている。
それだけの、関係だ。
けれど、10日め、15日め、20日め、ひと月 と、逢瀬を重ねていく内に、どんどん波紋は大きな渦に変わり、いつしかその気持ちを友梨は無視出来なくなっていた。
そして、その事に、芳情院と和音本人も、気付いていた。
けれどだからと言って、また以前のような失敗はしたくなかった。
和音は臆病になり、芳情院も弱気になる。
友梨はなんとなく、2人から避けられているかのような感覚を持ち始めていた。