記憶混濁*甘い痛み*2
「家族ごっこではありません。これは治療法の一つとして確立されていて……」
「そんなこと聞いてるんじゃねぇんだよ」
ガン!
空也は、大理石のテーブルの縁を強く蹴った。
普通なら足が負けてしまいそうだが、空也の履いている武骨な厚い革のブーツの底は、テーブルを強く揺らした。
「……暴力は」
「暴力はまだ働いてませーん。これからどうなるかはわかんねぇけど。なあ、センセイよ、ウチの友梨で、何するつもりだ?」
「……何って」
「何か面白い実験でもしてんのか?だったら、やめてくれねぇかな。オレは素人だけどよ、その、疑似家族とかゆー、治療法?友梨には逆効果にしかならねぇと思うんだよ」
「……」
空也の静かなのに迫力のある様子に、狩谷は、つい黙ってしまう。
「記憶障害は未だに謎が多い。数分で戻る場合もあれば、一生戻らない場合もある。友梨は過去にも数回記憶障害を起こした事があるが、今回は長すぎる。そんな時に」
「記憶を戻すのを躊躇っておられるのは、条野さんと、お嬢様ご自身です。だとしたら今出来ることとして、生きてゆく事への執着心を持たせることが……」
「負けず嫌いなセンセイだな?」