記憶混濁*甘い痛み*2
------けれど、芳情院は。
「まあ、すぐにはね 無理な話なんだが。そういう方向で、治療を続けてもらおうか」
と、言って、優しく、けれど切なそうな瞳をして友梨に微笑みかけた。
すると友梨は唇を尖らせて。
「…もう大丈夫なのに」
と、言って芳情院に不満の上目使い。
「私…そんなに酷い怪我をしたんですか?体の傷は…見て、解りましたけれど…頭の中の事は良く解りません。検査以外は普通に生活出来ますのに…まだ退院出来ないなんて」
可愛い顔がふくれている。芳情院の前の友梨は、兄に甘える妹のようだ。
「もともと長生き出来ないって言われているなら、病院ではなく、お兄様の側で、お兄様のお世話をさせていただいて、毎日を充実させてから死んでいきたいわ」
友梨は珍しく、少しだけ苛ついた表情をしている。
そんな彼女の顔を見て芳情院は、抱きしめる腕に力を入れると、友梨の身体を自分の身体にぴたりと密着させる。
「……長生き出来ないなんて、言わないでくれ。オマエは深山咲に帰って、好きな茶道の事だけ考えて、自由に生きてくれればいい」
「……お兄様」
「友梨……」
芳情院の切なそうな表情に、友梨の胸が痛んだ。