記憶混濁*甘い痛み*2
------まだ光の射さない午前4時。
和音から看護を引き継いだ芳情院は、眠れないまま友梨の病室のソファーで1人溜息をついていた。
空也は、煙草を吸いに外に出てしまっている。
空也がいるとさすがに遠慮する溜息が、今ならばつき放題だ。
友梨は、静かに、幸せそうに眠っていた。
少し前に目を醒ました彼女は、和音の事を見て。
『かずねせんぱい』
と、呼びかけ、ニコリと笑った。
そして、瞳から涙を流し。
『ゴメンナサイ
ワタシ カエラナキャ』
と、言って、一瞬気を失い、次に瞳を開けた時には。
『条野サン……?』
と『夫』を呼んだ。
「……」
その事を思い出し、また溜息。
自分は。
一体どうすれば良いのだろうか。
芳情院は照明が消されないままの室内で、自分の左手に光る結婚指輪に視線を向けた。
友梨がこんな事になって、慌てて用意したTIFFANYの結婚指輪。
7ヶ月間指にはめられたソレは、もう随分前からそこにいるかのように馴染んでいる。
条野の指から指輪が外され、自分の指に新しい指輪がはめられた事に、そしてソレを確認する度に、心の中から優越感が顔を出す。