記憶混濁*甘い痛み*2

………………     


…………なんて。




バカな、夢を見ていた。


時間になってヴェールをかけられた後も胸元を気にしてオレを見つめる友梨の瞳が可愛くて、忍に渡すつもりだったデジカメのシャッターを切り、愛しい妻を写真の中に閉じ込めた。


オレが彼女を写真に閉じ込めたように

彼女もこの時、不安を心に閉じ込めていた事なんて、知りも、せずに。






カチ……


クリック。






和音は写真を閉じて、そのままパソコンをシャットダウンする。


間接証明も点けていない室内では、パソコンデスクの上のシンプルなデジタル時計だけが、寂しく弱々しい光を放っていた。


和音は小さく溜息をついて、デスクの上に置かれたロザリオとハリーウィストンの指輪に手を伸ばす。


外して7ヶ月たつ指輪の居場所は、他の部分よりも皮膚が少し凹んでおり、緩くはなったものの、居心地良さそうにそこに馴染む。




『和音先輩の指、長くて、爪もキレイ。友梨より似合うみたい』


そう言って友梨は、和音と自分の手を見比べて嬉しそうに笑っていた。


『ねえ、和音先輩?結婚指輪は、一生、外したらイヤ。友梨も、何があっても、絶対外さない。だから、ね?』







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