記憶混濁*甘い痛み*2

その、約束を。


友梨は今も、心のどこかで覚えているのだろうか?


昏睡状態の時でさえ、誰にも指輪に触れさせず。


まるで左手の薬指の指輪、それだけが。


和音との記憶を封印している、大切な宝物であるかのような扱いだけれど。


指輪をクルリと回して、和音は再び溜息。




あの日から既に、7ヶ月。

この先、友梨が自分を思い出す可能性は、どれほどの確率なのだろうか?


『……一生、ないかもしれない。それは、覚悟して下さい』


狩谷に最初に言われた言葉を思い出す。


『条野、友梨と結婚するって言うのは、そういう事だぞ?』


そして、結婚前に確認された、空也の言葉も。




その時の確認事項は、繊細な身体の事だけではなく、精神的な事も含まれていた。


友梨には記憶障害があり、今後もないとは限らないこと。


その場合、状況によっては婚姻関係を白紙に戻す可能性があること。




それを了解しなければ。


2人の結婚は、認められない。






その、空也の言葉に頷いた時。


和音は、別にいい加減な気持ちでいた訳ではなかった。


ただ、まさか。


こんな風に。
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