記憶混濁*甘い痛み*2
彼女の心の裏側を、見ようともしなかった。
「……」
再びクルリと指輪を回してから、和音はひとつ溜息をつき、左手からそれを外した。
このまま、この不安定な状態を、いつまで続ければ良いのだろうか。
オレの気が、済むまでか?
深山咲の情けが、オレに向けられている間までか?
それとも
…………友梨の記憶が、戻る、までか?
彼女の記憶が戻って
オレの事を突き放し、嫌悪し、侮蔑の視線を向けられて、おもうさま、なじられたなら。
オレは、友梨を諦める事が、出来るのだろうか……
「……」
溜息、そして、静かな、涙。
「……友梨……」
心の奥に消えた愛しい妻の名前を、そっと唇にのせると切なさがつのる。