記憶混濁*甘い痛み*2
喫煙室を出てから、数分後------
すっかり毒気が抜けてしまったかのような芳情院を送り出してから、空也は友梨の病室へと急いでいた。
『すみませんでした』
そう言って頭を下げる芳情院は酷く疲れていて、友梨に触れる事の出来ない和音よりも弱々しく見えた。
幼い頃から人の気持ちに賢い芳情院が、時計を気にする空也の態度を見過ごし、友梨を手放したくないと嘆いた。
友梨を心配しての嘆きではなく
自分の哀れさに痛み、苦しみや本音を打ち明けた。
「はじめて見たな……」
唇の中で独り言。
三階の一番奥の角部屋に着くと、空也はコートのポケットに入れていた手を出して病室のドアノブを回した。
……条野、なのか、それとも芳情、なのか。
そろそろ、決断しなきゃいけねぇ時なのかもしれねぇな……
友梨……
そんな風に思いながら、空也は重いドアを開く。
------と。
コツコツ、ガツン、コツ…と、いう妙なリズム感の音と、薄く…血の匂い。
「友梨!このバカ娘がっ!何してやがんだっ!」
ドアの右手にあるベッドの上の友梨は、無表情のまま左手を血に染めていた。