シブヤクーロン

 そんな話をした夜に、よりが珍しく泥酔して帰ってきた。
お店の先輩お姉さんふたりに抱えながら。




「すいません。ご迷惑おかけしました。」

「吉川ちゃんがこんなになるなんて珍しいわよね。」

「あとはよろしくお願いしますね。」




より、あたしの名前使ってんだ。自分のこと言われたみたいでびっくりしたじゃないよ。
下の名前も百合子っての?


 それからよりは、毎晩のようにそうやって帰って来た。
いつも頭を下げてるのあたしなんだけど。
服を緩めたり、時には着替えさせたり、水を飲ませたり、もう大変なんだけど、全然覚えてないって、まったく。




「ゆりぃ、ごめんて。もう飲まないから、ねーえー」




そうは言ってもよりが好きだし、別に怒ってないし、何にも言ってないんだけど、よりはずっと謝ってくる。
それもまたかわいいけど、体が心配だよ。




「あたしは大丈夫だけど、あんた潰れてるから、気を付けなよ。」

「分かってる。だからひとりにしないでー」

「してないってば。まだ仕事にも行かないし。ちょっとご飯買ってくる。」

「ねーえー、いっしょにいくー」

「寝てなさい。お茶買ってくるから。」




まるで子どもみたいになるより。
今までこんなのなかったのに、仕事大変なんだな。
酒を飲まなくちゃいけなくて、抜けたら子どもになる。
まあまだ未成年だもんね。やっぱり体がついていかないんだよ。



「二日酔いにはしじみ汁がいいよ。朝に用意出来なくても、味噌汁は飲ませてあげて。お姉さんも大変だろうねぇ。」




ケーキおばちゃんに姉が夜の商売でと話したら、対策を教えてくれた。
よりが起きるのはお昼だから、朝イチでスーパーに行ってしじみを買おう。あたしも健康になれるし。

あたしたち、体こわしても病院行けないからね。

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