妄毒シチュー
『ごめん、ミナ。好きな人が出来たんだ』
でっかい体を折り曲げて、床におでこが付きそうな勢いで頭を下げる昨夜のコータの事を思い出す。
その記憶を振り払うように、手に持った缶ビール入りのビニール袋を大きく振り回した。
びゅん、びゅん
風を切る音が気持ちよくて調子に乗って振り回し続けていると、遠心力に耐えきれなくなったビニール袋が
ぷちんっ!
突然ちぎれて缶ビールが地面に転がった。
「ああ……!」
なんてこった。
彼氏に捨てられた惨めなこのあたしを、ビニール袋までもが容赦なく裏切るのね。
そんなネガティブの塊のあたしの前から、逃げ出すようにゴロゴロと転がっていく6本の缶ビール。
待って、アタシのビールちゃん……!
慌てて屈んでビールを追いかけていると、綺麗な長い指があたしのビールを拾って集めてくれた。