妄毒シチュー

「何さ、天使とか言って。美容室であたしのグチを聞いてただけじゃん」

だからあたしの名前も
彼氏にフラれた事も
全部知ってたんじゃない。

ふて腐れてワインを煽るあたしに、ニセ天使は柔らかく微笑んだ。


「だって、休みの日に外を歩いていたら、缶ビールが道を転がってきて目の前に昨日店でバッサリ髪を切ったばっかりのお客さんがいたんだよ」


窓から吹き込む夏の風が、レースのカーテンとニセ天使の栗色の髪を揺らす。


「店でいいだけ彼氏のグチを言ってた人が、昼間からひとりでビール買ってるんだもん。
これからこの子はやけ酒するんだなぁと思ったら、なんか放っておけないよね」

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